3331 Arts Chiyodaは、旧千代田区立練成中学校を改修して誕生したアートセンターです。2010年の開館以来、現代アートに限らず、建築やデザイン、身体表現から地域の歴史・文化まで、多彩な表現を発信する場として、展覧会やトークイベント、ワークショップなどを定期的に開催しています。また、地域住民や近隣の子どもたちとのアートプロジェクトの実践や地域行事への参加なども当館の重要な活動のひとつです。
地下1階〜地上3階の館内は、アートギャラリーやスタジオ、クリエイティブオフィスとして活用され、日々さまざまな活動が生まれています。コミュニティスペースやおやこ休憩室など誰でも無料で利用できる各種フリースペースやカフェ、ショップも充実しており、お昼時には近隣にお勤めの方や小さいお子さま連れの方で賑わい、夕方には宿題をする子供たちの姿も見られます。
あらゆる人たちの「表現したい」という想いに寄り添う‘アートの拠点’と‘地域の憩いの場’が共存する当館では、アーティストから子どもまで多様な人々が集い、文化的な活動を通して芽生える創造性を大切にしています。
当館は、千代田区文化芸術条例に基づき策定された千代田区文化芸術プランの重点プロジェクトとして始まり、公募により選定された運営団体が民設民営による運営を行なっています。プロジェクトの経緯について、詳しくはこちらからご覧ください。
10年前、開館直前に次のようなステートメントを書きました。
『アーティストの表現を喚起するエネルギーそのものが「街の創造力」と言えるのです。アートとは、アーティストだけによって創られるのではなく、街が培ってきた歴史性や経済性を含む地域の創造力によって創られていくものです。言い方を変えると、アーティストとは、その街の見えない力を視覚化する卓越した創造力・人間力を持っている存在なのです。そのためにも専門性と意志を持ったそのつなぎ手として、アーティストと共に悩み、創造の喜びを分かち合う、有機的な活動体としての組織が必要とされるのです。』
さて、3331 Arts Chiyodaは、どのようなアートセンターとなったのでしょうか? この10年前の理念は、具現化されたでしょうか?
閉校した学校で誰も知らなかった場所が、年間の施設利用者が約85万人、約1000本のイベントが開催される日本で最もアクティブなクリエイティブハブ機能をもつ民設民営のアートセンターとして成長しました。地域の祭りに関連した展覧会から現代美術の先鋭なアーティストが集まるアートフェア、観光や地域文化のPRイベントから国際的学会のシンポジウムまで、3331自体がひとつの街のように多様で個性的なクリエイティブプログラムが日々行われています。また、学校の宿題をする子供、真剣に打ち合わせするグループ、ランチを食べる近隣企業の人々が隣り合わせのテーブルにいる光景は、安心でリラックスした誰にでも優しい空間としてみんなの居場所となっています。さらに、いざとなった時には、防災拠点として機能する事が、3.11や台風災害時で証明されてきました。24時間、創造と防災が同時に行われているのです。
この10年をふまえ、3331 Arts Chiyodaの次のキーワードは、「寛容性と批評性」です。表現を管理、規制し自己制約を忖度する時代になってきたからこそ、いかなる先鋭な「批評性」ある活動でも受けとめる「寛容性」ある場として3331 Arts Chiyodaの在り方をアップデートしていきます。ポストコロナ時代だからこそ、短期利益重視から長期的サスティナブルな社会構築へ向かう意識改革が必要です。3331は、どのような活動にも「寛容性」ある場として街に開き、時代を切り開く「批評性」ある事業を発信します。そして「個人の創造力」と「街の創造力」をシンクロさせ、次の時代の新しい価値を生み出すクリエイティブエンジンとして走らせ続けたいと思います。
3331 Arts Chiyoda 統括ディレクター
中村政人
(アーティスト、東京藝術大学教授)
名称が決まった時、由来の話は面白いのだけれど、それをいかにシンボルとして定着させるかは、なかなかの難題でした。あらゆる角度からたくさんスケッチしましたがどうにもうまくまとまりません。アイデアも尽きたかというところでまだ手を動かしているうち、直線のみで構成されている漢数字の単純さに目が止まりました。あれこれ組み合わせているうち、「三三三一」と正確には表記されていなくても、そう見えてくるバランスを発見。三を三つ足してできた九(苦)に一を加えて最後に丸く納まるというところを、造形的に援用して完成へと至りました。最初はちょっと不思議に見えていたマークも3+3+3+1=10年間使われ続けたことでやっと定着したかなと思っています。
3331 Arts Chiyoda デザインディレクター
佐藤直樹
(アートディレクター、画家、多摩美術大学教授)
“シャン・シャン・シャン”と三回手を打つことを三度、合わせて「九(苦)」となり、最後の“シャン”でその苦を払い、「九」に一画加えて「丸」になる=丸くおさまる - おめでたい席で感謝の意を表す風習として、江戸時代から受け継がれてきた手締めの文化である江戸一本締め。かけ声の「イヨーオ」は、「祝う・祝おう」が語源ともいわれています。“3331”は、施設がある江戸・東京の庶民文化の中心地である神田にちなみ、わたしたちの活動を通して人や地域がつながっていくという願いを込めた、手締めのリズムを表しています。