<スケジュールに関するお知らせ>
吉岡俊直は、15年間に渡る名古屋造形大学での教職や名古屋をベースにしたアーティストとしての活動に一区切りを置いた後、2014年に京都市立芸術大学に戻り精力的に後進の育成と表現活動を行なっています。
それまで主体的に関わっていた映像表現から一旦、版画という吉岡にとっての原初的な立ち位置に戻りながらも、新たにphotogrammetry*との出会いをきっかけにその技法を積極的に導入し、この4年間は様々な実験と挑戦を繰り返しています。
今回の展覧会では、photogrammetryの研究成果を遺憾なく発揮した版画作品(ゴムシートにシルクスクリーン)を発表いたします。
吉岡は今回の発表に向けて「人間が世界を知覚する際の枠組みを再構築する事で、外界を捉える事への問いを誘発させる事、それがこの展覧会の目的である」と語っています。
吉岡の知覚に関する真摯な考察と、彼が見据える新しい版画表現の地平に、ぜひご注目ください。
* 写真測量、写真を使った3次元データ取得技術
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Artist statement
私は、現代社会が陥っている物事に対する平坦な捉え方に一石を投じる機会として、そして新たな世界の捉え方を想起できる装置として、photogrammetryによる版画作品を現在制作しています。
それは、大きなストーリーやアミューズメントではなく、日常に根ざした、リアルで具体的な体験を基盤にして考えています。
なぜなら、そのリアルで地続きに繋がっている感覚こそが、作品鑑賞や展覧会を後にしても尚、響き渡る新たな感覚として鑑賞者の中に残ると思うからです。
物や空間の捉え方を揺るがす事というのは、一見難しい様にも思えますが、実はシンプルな投げかけでも実現できると感じています。
昨今、3DCG で構成されたメタバースに入って、買い物や、街づくり、飛行などに没入するような経験も得る事が可能になっています。
その経験の後、実際の建物や行き交う人々が、まるで「作られている様な感覚」がしばらく続いたのには、私自身驚きました。
このような日常の捉え方の再規定を、商業ベースのゲームの副産物としてではなく、むしろ、そういった感覚を主役に据え、可塑性を持った事物にあふれた世界だと想定し、シンプルな手法と、観客の能動的な陶酔によって、日常の情景を変容するような場を作り出したいと考えています。
この事は、これから益々広がり、浸透するであろうARやSNSに対する、フィジカルな反応の指針となる気がしてなりません。
この作品シリーズ制作のため、普段見慣れた情景を撮影してゆくうちに、大きな発見がありました。それは、いかに我々は表面の色や陰影に誤摩化されているか。逆に言えば、表面の情報の影響力がいかに強いか、という事です。家に持ち帰って立体化の解析を行うと、現場では気づかなかった構造に気づかされます。テクノロジーの謳歌ではなく、テクノロジーのフィルタを使って、自分が出会った驚きを視覚芸術の作品として提示したいと考えています。
具体的には、版画作品としてゴムシートにシルクスクリーンで刷ることによって、データという非物質的な存在を、ゴムやインク(シルクスクリーンのインクは分厚く、盛られている感覚を有します)といった物質感を伴うメディアで実体化できます。このことで、デジタルデータに触覚的な体験を付加させる事が可能になります。
文:吉岡俊直
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